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ガラス扉が開く気配に、は顔を上げる。

「ほほぅ、これはなかなか」
「いらっしゃ…え?ライダーさん?」
「おぉ、!久方ぶりであるな」

入ってきた大柄な男に目を丸くしていれば、数歩で近くに寄ったライダーの大きな手に頭をわしわしと撫でられた。

「わっ、ちょ…」

わははと笑うライダーから逃れ、髪を整えながら首を傾げて見上げる。

「どうされたんです?」
「いや、何、近くを通ったものでな。セイバーから噂も聞いておったし寄ってみたのよ。うむ、どこにやったか…」

ごそごそとポケットを漁っていたライダーがスマホを取り出したかと思うと、に向けてくる。

「ほれ、笑え」
「へ?あ?はい?」
「えぇと、これをこうして…」

戸惑っている間に、かしゃりとシャッター音が響き、何やら操作しているライダーには胡乱な顔になった。

「…なんだかとても嫌な予感がするんですが?」
「気にするな、悪いようにはせんから。そうだな、ブレンドをホットで貰おう」
「…はい」

注文されてしまえば、否やはない。
と言うか、詳しくも聞きたくない。
空いた席に案内し、はそそくさとカウンターへと引っ込んだ。




「ライダー!貴様どう言う了見だ!!!」

しばらくして、ドアを壊さんばかりに押し開けて入ってきたギルガメッシュに、コーヒーを啜っていたライダーの顔が楽しそうな表情を浮かべる。
対照的に、やっぱりこうなるのか、との顔はげんなりとしたものに変わった。

「いやはや、噂は本当であったか」
「私をだしに遊ばないでください、ライダーさん…」

心底疲れた溜め息を吐いて、コーヒーでも用意するかとカウンターに戻ろうとすれば、ギルガメッシュに捕まる。
確認するように上から下へと視線が走るのを感じながら、ギルガメッシュを見上げた。

「…とりあえず座ったら?」
「おぅ、座れ座れ。こちらもお代わりを頼む」
「はい」

お疲れ、とでも言いたげにぽんぽんと体を拘束する腕を叩いて、はするりと抜け出した。
ひどく険しい顔でそれを見送り、ライダーへと視線を戻したギルガメッシュは荒々しく向かいに座る。

「このような呼び出し方をするとは何事だ」
「ん?いや、セイバーがな。あの暴君を射止めただけあって人柄も良いし食事も美味い、などと言うから、普段の様子を見に来たのだ。それにお前さん最近付き合いが悪いからな」
「射止めた?勘違いするなよ、あれを飼っているのは我ぞ」
「うん?そうかぁ?うまく転がされているようではないか」

にぃっと口角を上げて言えば、ギルガメッシュの眉間に皺が寄った。
ライダーがカウンターへと視線をやれば、何やら店長と話しながらてきぱきと準備して行くの姿。
やはり今までこの男が侍らせていた女達とは何か違う、とライダーはほくそ笑む。
その顔を見て、ギルガメッシュもますます不愉快さに顔をしかめた。


ぽつぽつと情勢や、会社について腹の探り合いをしていれば、がトレーを手に近付いて来る。

「お待たせしました」
「おぅ、来たか。のう、。こやつから別れを切り出されたらどうする」
「はい?」
「なっ!?」

ライダーの唐突な問いに、コーヒーのカップを置きながらきょとんとするの横でギルガメッシュも目を見開く。

「貴様、何を――」
「そうですねぇ…とりあえず、引っ越し先が見つかるまで一週間程、家を出るのは待ってもらいます」

しれっとが言えば、一瞬驚いた表情を浮かべたライダーが吹き出したかと思うと豪快に笑い出した。

「っ、許さぬぞ!」

愕然としていたギルガメッシュが抗議するが、は目をしばたたかせる。

「別れるってなったら、もう要らないって事でしょう?なら許すも何も…」
「そのような事態を想定するな!」
「いや、今の質問だとそれしかなくない?」

私のせいじゃないし、と淡々と答えれば、ギルガメッシュが苛立たしげにライダーを鋭く睨む。
余計な事を言うなと言わんばかりの態度だが、それに怖気付くようなライダーではない。

「やれやれ、本当にあっさりしたものだな」
「人の心なんて移ろいやすいものですから。ここでどれだけの別れや修羅場を見てきたか。もちろん良いお話もありますけど」

ようやく笑いが治まって、息をつきながら言うライダーに、は肩をすくめる。
そして、くつくつと笑うライダーの目がギルガメッシュに向いた。

「じゃあ、お前さん、から別――」
「言わせぬし、許さぬ」

最後まで聞く事なくギルガメッシュが切り返せば、が小さく息を吐いた。

「まあ、私は黙って出て行けば済むし?そこは経験済みよね、社長さん」

これまたなんでもないように言うと、ぎょっとしてを見上げるギルガメッシュの様子に、ぽかんとしていたライダーはまた盛大に笑い出す。

「っ待たんか!」

付き合いきれないとでも言うように、ひらりと手を振って仕事に戻って行くにギルガメッシュが噛み付くが、素知らぬ顔で歩き去る。


『なんだかんだで、上手くやっていますよ』

セイバーの可笑しそうな言葉を思い返して、なるほどな、とライダーは満足げ頷き、残っていたコーヒーを飲み干した。