FGO



悪夢再び。
少々怯えて迎えると言っても過言ではないこの季節。
数年は何事もなく過ごせたと言うのに、藤丸と立香がハロウィンの記憶を失った辺りから暗雲が立ち込め、正直、またか、と言う気持ちだった。
特異点を修復し、無事に戻ってきたマスター達がまとう闇の残滓に内心で肝を冷やしたのも記憶に新しい。
そして、どうやら彼方で入手したらしい衣装が魔術礼装として回収できたようなのだが、それがまた格好良いと可愛いが合わさって、二人ともとてもよく似合っていた。

「どんどん衣装が増えて行くわねぇ」
「またいつもと雰囲気違うよね、これ」

スカートと共に腰の布がひらりと翻る。
その場で一回転して見せた立香の顔はとても嬉しげだ。

「今回は童話モチーフ…だったかしら?エスコート役ね?」
「ん-、それは…どうだろ…?」

ふふっと笑えば、藤丸が頬を掻きながら苦笑いする。

「まあでも、紛れもなく戦闘の為の服だけど、こうして色々楽しめるのは良いわね」
「いやー、さんの衣装数には敵わないけどね」
「私のはウルク用だもの。ここでは着にくいわ」

苦笑しながらが何気なしに返すと、急に立香に肩を掴まれる。

「アトラス院」
「え?」
「アトラス院を、着て」

ずずいと詰め寄りながら告げられた言葉に、目を白黒させたは困ったように眉尻を下げる。

「まず、サイズが合わないでしょう?」
「なんとかする」
「なるものじゃないでしょう…」
「なんとか、する」

力強く言い切る立香の目は本気だった。



そんな会話をしたのが数日前。
まさか本当に用意されるとは思っていなかった。
意気揚々と自室を訪ねて来た立香に渡された紙袋の中身は言わずもがな。
流されるまま着替えたものの、鏡に映る自分の姿に頭を抱える。

上は良い。
ケープのように広がる袖は可愛らしく、その代わりネクタイを締めた首周りはすっきりとしていかにも制服と言った感じだ。
何より問題は下にある。

「眼鏡!絶対領域!控えめに言って最高!」
「っ、スカート、短過ぎない?」

満足げにガッツポーズを決めている立香に、はスカートの裾を引っ張りながら訴える。
立香が着ている時は気にならなかったが、思った以上に丈が短い。
しゃがめば下着が見えるのではと、はらはらしっぱなしだ。

「でも、さん、初めて新宿行った時、セイバーオルタに借りて短パン履いてたよね」
「え、その…あれは…ズボンだし、それに黒タイツも履いてたから」
「あ、じゃあ、こっち着る?」

どこからか出してきたのは、魔術協会制服。
カラーリングとしてはまさしく今の時期と言えなくもない。
が、何故そんな物までここにあるのか。

「なんでそんな複数準備されてるの!?」
「楽しいから。あ、さすがにスキルは付与されてないよ?」

泣きそうになりながら言えば、けろりとした顔で答えられる。
こんな事に大事なリソースを使わないで、と思うのはおかしいのだろうか。
本当にイベント事となると全力を傾けるこの傾向は何とかしてほしい。

「…マシュのビースト衣装が良かった?」
「やめて!!!」

押し黙っていると何を勘違いしたのか、立香が口にした言葉に悲鳴に近い声で否を示せば、背後でドアの開く音がした。

「何を喧しくしておる」
「ギ、ギル…」

慌てて振り返ると訝しげな顔でこちらを見ているギルガメッシュが立っている。

「…ハロウィンの仮装か」
「違うわ!」

何と言っていいかわからず固まっていれば、しばしの間の後、軽く首を傾げながら問われて、これまた否定の声を上げる。

「ちょ、王様!それじゃ私が毎日コスプレみたいな!」
「あながち間違ってはおるまい」

続く立香の言葉も、はっ、と鼻で笑い飛ばしたギルガメッシュがそばまで来る。
腰を引き寄せられたかと思うと、そのままソファへと促された。
どさりと座ったギルガメッシュに手を引かれ、膝に座らされる。

「あっ、ちょっ!」

確かに自室ではあるが、立香がいるのに、と慌てたの視界の端でドアに向かう姿が見える。
開いたドアをくぐりながら、ちらっとこちらを見た立香はの視線に気付いて、にっと微笑うとウィンクして手を振り出て行った。
少しほっとしたものの、気を遣わせた事に申し訳なく思う。
ただ、この後の展開にどんな予想をしたのか知らないが、どこかにやにやしていた事は見なかった事にしたい。

ますます短くなるスカート丈を気にしつつ、はぁ、と溜め息を吐くとソファの背にもたれたギルガメッシュの視線が上から下へと品定めするように動くのがわかる。

「まあ、いつもとは違うが…」
「えっと…、その…着替えたい…のだけど」

ふむ、と顎をしゃくるギルガメッシュに、居た堪れなくなったは身動いで困った顔になる。
すると、ギルガメッシュの口角がにやりと上がった。

「今年は貴様から言うがいい」

愉しげに真紅が細められるが、何の事かわからず目を丸くする。

「言う??」
「この時期には常套句があろう?」
「……もしかして、トリックオアトリート?」

しばし考え確かめるように口にすれば、当たりだとでも言うように頬を撫でられて、いつもの癖で軽く目を伏せてしまう。

「邪魔だな」
「?」

呟いたギルガメッシュの手が滑り、こめかみに触れた指がそのまま眼鏡のつるを摘んだ。
外された眼鏡が机に放られて、目尻をなぞられる。
目をしばたたかせて見上げれば、そっと口付けられた。
すぐに離れたものの、至近距離でじっと見つめて来る真紅に照れくささも相まって、思わず視線を泳がせてしまう。
くしゃりと髪を撫でられ、また塞がれる唇。
けれどそれも短い時間で、額を合わせ戯れるように触れ合う鼻先にくすぐったさを覚える。
結局される側なのはいつも通りだ。

(…問いとして口にしたわけではなくて、確認だったのだけど…。ギルは、どちらのつもりなのかしらね…)

まあ、悪戯をしてみせよと言われれば心底困ってしまうし、いつもとそう変わらないこの触れ合いこそ、己を甘く満たして行くのはわかりきっている。
きっとどちらでもあってどちらでもない。
どこか諦め半分な気持ちで、ふっと息を吐く。

「ん?」
「なんでもない」

くすくすと微笑ったは少し身を離す。
首筋を辿ったギルガメッシュが指がネクタイに触れたのに気付いて、そっと立ち上がった。

「着替えるわ」

静かに言って、畳んで置いてあった自身の服を手に洗面所へと向かう。
まあその方が脱がしやすいなどとギルガメッシュが考えている事などつゆ知らず、は扉を閉めた。