「「「「ありがとー!」」」」
賑やかに駆けていくジャック達に、ひらひらと手を振って見送ったはキッチンへと戻ろうと廊下を進みかけて、人影に気付く。
「アナ?」
廊下に佇む小柄な影に、声をかければ、はっとしたように振り返った。
「……何か用ですか?」
固い声に苦笑して、はアナに近付く。
「用と言うか…皆に甘い物を配ってるんだけど、アナもどうかなと思って」
「甘い、もの…」
伺うように言えば、少し目を輝かせるが、アナはすぐに視線を落としてしまう。
まだまだ人に対して壁を作ってしまうその様子に、自分を重ねて、は苦笑した。
「ね、アナ」
訝しげに見上げてくるアナに、はにこりと笑みを浮かべる。
「トリックオアトリート」
「っ…それは、子供が言う言葉です」
「えぇそうね。で?」
笑顔を湛えたまま小首を傾げれば、戸惑ったようにアナは口を開く。
「私は何も…」
「ふふ、じゃあ、悪戯ね」
眉をひそめて警戒するアナに微笑って、その小さな手を取った。
そして、そこに包みを一つ。
「? これは…。何故、貴方が渡す側なんですか」
「あら、だって、要らないって言うつもりでしょう?十分な嫌がらせになると思わない?」
の言葉に少し目を見開いた後、アナは気まずそうに視線を泳がす。
「もう渡してしまったから、それを捨てようがどうしようがアナの自由よ」
「っそんな事はしません!……し、仕方がないので貰ってあげます」
「ありがとう」
嬉しそうに破顔して言えば、溜め息を吐いたアナが緩く首を振った。
「貴方は…もう少し相手を見て行動した方が良い」
「?」
「これは私のせいではありませんので」
「え?」
すっとアナの視線が動いて、自分とは違う何かを見ながら言われた言葉に、もそちらを見る。
「あら、ギル」
「また童どもに配り歩いておったのか」
「ハロウィンだからね」
「…私はこれで。これはちゃんと食べさせてもらいます…………ありがとう」
の意識がギルガメッシュに移ったのをいい事に、アナは呟くように言って、するりとその横を抜けて歩き去った。
「あ…」
アナに声をかけ損ねたものの、仕方ないかと苦笑したは、入れ違いで近付いてくるギルガメッシュを見上げた。
少し甘い香りを漂わせているを引き寄せたギルガメッシュは不服そうな雰囲気を醸し出す。
「我への貢物は後回しか」
「貴方のは今キッチンで冷まし中なんだけど」
「ほぉ?」
困ったように言うに、静かに相槌をうった真紅が細まる。
「今年はカボチャのっ、んん!?」
唐突に口を塞がれ、驚いたの体がびくりと跳ねる。
至近距離にある真紅に、ぎゅっと目を閉じれば、ギルガメッシュの口角が上がるのがわかった。
深くなる口付けに苦しくなって、胸元を叩きながら抗うと、ぺろりと唇を舐めて解放される。
「っ、ちゃんと用意してるって言ってるのに」
眉根を寄せ、眦をきつくしてギルガメッシュを見上げたが恨みがましく言えば、ギルガメッシュは、はっと笑う。
「今ここにないのであれば意味はなかろう?」
赤く染まった頬をゆるゆるとなぞりながら返された言葉に、少し眉尻を下げたは小さく息を吐いた。
「配り終えた後の方が、ゆっくりお茶ができるなと思ったんだけど?」
「本来であれば、我だけに尽くすべきところを許容してやっておるのだ。甘んじて受け入れろ」
当たり前のように言われて、ますます困った顔になったが居心地悪げに身動ぐ。
今は人気がないとは言え、いつ誰が通ってもおかしくない廊下のど真ん中なのだ。
「ば、場所は選んで欲しいわ…」
「それでは悪戯になるまい?」
ギルガメッシュはの髪を梳いて、愉しげにくつくつと笑う。
その様子に、今度はが眉をひそめて不服そうな顔になる。
「と言うか、まず問われてもいないわね?」
「ほぉ、また悪戯を望むと。ならば言ってやろう、トリック――」
「っストップ!!!!」
口角を吊り上げ、お決まりの言葉を発しようとしたギルガメッシュの口を、は慌てたように手で塞いだ。