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※『光り輝く』の後日設定です。



机を指先で定期的に叩きながら、難しい顔をしたまま押し黙っているギルガメッシュの前で、立香と藤丸はちらりとアイコンタクトを取る。

(なんの呼び出しこれ)
(わからない…)

はぁ、と重たい溜め息を吐いたギルガメッシュの眉間の皺が深くなり、二人はびくりと体を震わせる。

「…業腹だが思い付かん」
「「…………へ?」」

呟かれた言葉に、ぽかんとした藤丸と立香は、何度も目をしばたたかせる。

「あれへの返しだ」
「え、さん?」
「あぁ、ホワイトデー!」

納得顔の立香を一瞥して、ギルガメッシュはもう一度溜め息をつく。

「あれは欲がなさすぎる」
「…王様がわからない事を俺達がわかるとも思えないんだけど」
「うーん、さんの喜びそうなもの……もふもふ?」
「却下だ」

即答されて、ですよねぇ、と立香は少し上を見て首をひねる。
下手をすれば常に側に置いて動かなくなりそうなを想像して、藤丸も苦笑するしかない。
しばしの沈黙が流れ、かつかつと机を叩く音が響く中、立香がぽん、と手を打った。

「あ、じゃあさ、服は?」
「へ?服?」

横できょとんとする藤丸に一つ頷いた立香は続ける。

さん、ウルクで大体、普段着のままか、表立って動く時はあの白いやつでしょ?似合ってるけど、あれやっぱりお披露目目当てだっただけあって、普段着るにはしんどいと思うんだよね。顔も知られてきてるし、向こうで着れる服はあっても良いんじゃない?」

ぴっと人差し指を立てて言う立香に、ふむ、とギルガメッシュは顎に手を当てた。

「なるほどな」
「たぶんダ・ヴィンチちゃんに頼めば喜んでやってくれると思うけど」
「付き合え、雑種」

立香が言うなり、立ち上がったギルガメッシュは颯爽と歩き出した。





部屋にいろ、と指示されて、疑問に思いながらも大人しく従ったは、私室として与えられた部屋で、明かり取りに大きく切り取られた石壁に頬杖をついて街並みを眺めていた。

さーん、お届け物でーす」
「立香?」

名を呼びながら入って来た立香を振り返り、は首を傾げる。

「王様から、ホワイトデーの贈り物でっす」

目を丸くするに、にこりと笑って言った立香は、はい、と手にしていた物を渡した。

「さくっと着替えて来て★」
「…き、がえ?」

とりあえず受け取ったものの、固まってしまったをよそに、どこからか現れた侍女が手早く衝立を準備すると、さっさと退室する。

「……」
「ほらほら、早く」
「…拒否権は?」
「え?王様からのお返しを?」

きょとんとして返された言葉に、はぐっと詰まった。
故意的な意図はなかったらしいが、見事にに刺さったそれは、逃げ道を完全に塞いだ。



「おぉ、さすが王様の見立て。めっちゃ似合う」
「そ…う……」

観念して着替えたものの、ウルクの気候に合わせて作られたそれはやはり普段着ている物よりも薄く、慣れない様子で晒された腕をさすりながらは視線を泳がす。

「着心地とか動きやすさは?」
「えぇ、まあ…」
「うんうん、じゃあ次ー」
「は?次?」

よくよく見れば、立香の後ろには何やら布の山。
着替えている間に人の出入りする気配はあったが、まさか荷を運び込まれているとは思わなかった。
口元を引きつらせたは何度か瞬きすると、立香を見る。

「あの、立香さん?」
「ん?」

首を傾げる立香の仕草に、可愛いなもう、と一瞬意識をそらされながらも、なんとか口を開く。

「その…布の山は?」
「服」
「誰の」
さんの。サイズ調整の確認を兼ねてるから全部試着してもらうよ?」

インターバルなく、さらりと返された言葉に、は絶句する。

「…いったいどれだけ手配したの」
「いや~王様の宝物庫からじゃんじゃん出てくるのがどれもこれも良い布で、ダ・ヴィンチちゃんのテンションが上がっちゃって…」
「待ちなさい、宝物庫?」

ざっと顔色を悪くしたは、震える声で問う。
それに、目をしばたたかせた立香は、うん、となんでもないように頷いた。




「ちょっと!ギル!!」

ドアがあったなら蹴破らんばかりの勢いで入って来たに、ギルガメッシュは顔を上げた。

「何事だ」
「何事も何も!いったいどんな謂れの布を出したの!?」
「さて、どれであったか…。ただ保管しているより布として役割を果たしただけであろう、何か問題が?」

しれっと答えるギルガメッシュに、は眉根を寄せてぎゅっと拳を握る。

「問題大有りよ!」

いったい貴重な布がどれ程使われたのかなど、怖くて確認もできないが、あの服の山を見れば、ただならぬ量である事は知れる。
やけに肌触りがいいと思った、とは今こうして着用している事も怖くなった。

「嫁を着飾って何が悪い。よく似合っておるではないか」
「よっ!?なっ、にっ…」

目を見開き、パクパクと口を開閉して言葉を失っているにギルガメッシュは口角を上げる。

「ほっほ、元気のよろしい事ですな」
「!!」

あまりの事にすっかり頭から抜け落ちていたが、どう考えても今は謁見中で、聞こえてきた聞き慣れない声に、ざっと青褪めたは視線を移す。
用意された椅子に座り、にこにこと笑顔でこちらを見ている小柄な老人に慌てて頭を下げた。

「こ、これは失礼をっ…」
「いえいえ、お声だけでこうも空気が柔らかくなられるとは…王も変わられましたな。奥方様に骨抜きと見える」
「おい、爺よ、余計な事を言うでない」

楽しげに紡がれた言葉に、が息を詰めて赤面すれば、ギルガメッシュは溜め息を吐きながら諌める。
居た堪れない気持ちで視線を泳がせていたは、こちらを見てはいるが合わない視線にふと気付いて、目をしばたたかせた。

「…失礼ですが…もしや…目が…?」
「えぇ。光の有無がわかる程度でございます。それ故、普段は占いを商いにしておりましてな」
「我の千里眼も些細なものに使うには大仰すぎる事があるからな。これには先見の占を任せておる」

なるほど、と頷いたに、老人はゆるりと穏やかな笑みを浮かべる。

「しかしながら、儂もそろそろ火が消えまするゆえ、最後のご挨拶に伺ったのです。まさか奥方様に御目通り叶うとは思ってもおりませんで」
「っ、あの、出来ればとお呼びください」

口にされた呼称に、居心地悪げに眉尻を下げたが頼むように言えば、おやおや、と笑われる。

「噂通りのお方でございますな。では、様と。…よろしければ、お手を少しお借りしても?」

少し首を傾げたものの、は老人に近寄り、何の躊躇いもなく膝をつくとその手を取った。

「ありがとうございます。…これはまた…大変な道を歩んで来られたのですな…。けれど、力強く、たおやかで、温かな手だ。王の良き支えとなりましょう」
「いえ、私はそのような…」
「先日は、王の名代をお勤めされたと聞き及んでおります。余り自分を過小評価せぬよう。上に立つ者が謙虚すぎてはいけませぬぞ」

まるで言い聞かせるように言われて、は困ったように苦笑する。

「あの役回りはもう遠慮したいですね」
「そうはいきますまいよ、なんせ、お相手はギルガメッシュ王ですからな」
「どういう意味だ」

愉快そうに老人が言えば、ギルガメッシュがむっとしたように言った。

「ほっほ。シドゥリ殿亡き今、留守を守れる人材は他におりますまい」
「…シドゥリの代わりではないぞ」

途端、眉をひそめたギルガメッシュに、老人は首を振る。

「えぇ、それはもちろん承知しております。ですが、貴方様の意図を汲み、的確に動ける者である事に違いはない」
「それはそうであろうな…。だが、それも叶わぬ事よ」

黙ってやりとりを聞いているを見て、ギルガメッシュはくっと口角を上げる。

「ここを離れるのであれば、それも連れて行くからな」

思わず、取ったままだった老人の手をぎゅっと握ってしまったに、老人はその心中を察して、くすくすと笑いを漏らす。

「これはこれは…。なるほど、時には諦めも肝心でございますな、様」
「……」

困った顔で軽く目を伏せれば、握っていた手を宥めるようにぽんぽんと叩かれた。
更に楽しそうに微笑った老人は、さて、と腰を上げる。

「長居してしまいましたな。そろそろ御前を失礼させていただかなければ」

老人の言葉に、ギルガメッシュを見たは何か言いたげな顔をする。

「…好きにせよ」

ふっと微笑って言ったギルガメッシュに笑みを浮かべて、は老人を支えるようにして立った。

「外までご一緒致します」
「これはまた、なんと光栄な」

顔を綻ばせた老人は、ギルガメッシュに一礼すると踵を返す。
それに付き添っても部屋を出た。



ゆっくりと廊下を行く。
比較的静かな回廊から、外へ近付くにつれて聞こえてくる喧騒に、は目を細めた。
相変わらず、この国は活気がある。
の様子を察したのか、老人は小さく笑った。

「皆、わかっておるのです。ウルクに先はないと。ですが、だからこそ、ウルクの民である事を誇りに、最後までウルクの民で在り続ける」

穏やかな声で語られる言葉。
けれど力強いそれに、は耳を傾ける。

「やはりウルクの民はお強い」
「それはそうでしょうな、なんせギルガメッシュ王の下に集まった民ですから」

どこか誇らしげに言った老人は、建物を出たところで立ち止まり、ほぅと息を吐いた。

「王との謁見はいつになっても緊張しますな」
「え?」
「飄々と振る舞えるのは年の功と言うもの。様のお出ましで、随分と楽が出来ました」
「この度は本当に失礼しました…。お役に立ったなら幸いです」

目をしばたたかせていたが苦笑して言えば、ほっほと老人も笑う。
しかし、すぐに真剣な様子で、老人は腕に添えられているの手を取った。

「…様、いずれ、つらい選択を迫られる事でしょう。どうか心のままにお進みくだされ。苦しくとも、必ずや、道は開かれる。…王をお頼み申します」

握られた手の力強さに、少し目を見開いたは息を呑んで、何度か瞬きした後、その手を握り返す。

「…王の剣であり、盾である為に私はここにいます。存在意義を与えられて、私は救われた。いざとなれば、命を削ってでも…必ず」
「ふふ、それは王が許しますまい。ですが、それ程の覚悟を持っておられるなら、何も心配はいりませんな」

老人の言葉に、も少し笑みをこぼして口を開いた。

「一時と言えど、王と共にウルクの民の側に在れる事は、何より光栄な事ですから」
「嬉しい事を言ってくださる。さぁ、ここまでで大丈夫。余り離れては王も機嫌を損ねられる。お戻りくだされ」
「はい」

ゆっくりとした足取りで去って行く老人に、深々とお辞儀をしたは、小さく息を吐いた後、自分の両手を見下ろして、軽く目を伏せる。

(…つらい…選択…)

頭を振って、憂いの表情を消すと、は踵を返した。



謁見の続く広間をちらりと見やり、は自室へと引き上げる。
敷居を跨げば、気付いた立香が顔を上げた。

「あ、お帰り~」
「…忘れてたわ」
「へ?」

自分が何をしにギルガメッシュの元へと行ったのか。
すっかり頭から抜けてしまっていた。

(…なんだか誤魔化された気がする)

はぁと溜め息を吐くに首を傾げた立香は、気を取り直しての手を取った。

「はい、じゃあ続きね」
「……」

笑顔の立香とは対照的に、の目は淀んだ。




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