※〇〇しないと出れない部屋ネタです。
また、クロスオーバーでアーサーが出張してます。
うーん、とは顎に手を当てて首を傾げる。
目の前にあるのは白い膜のようなもので、四方を全てそれに囲まれている。
まるで繭の中にいるようだなと思いながらも、何故自分がそんな所にいるのかがわからず、先程から悩んでいた。
(…檻…と言うより、守られてる?それに、これってギルの魔力よねぇ…)
一向に代わり映えのないその白に、触れてみるかと動いた瞬間、外に気配を感じた。
伸ばしかけた手を止めて相手を探れば、向こうも困惑したような雰囲気を醸し出す。
「…そちらに誰かいるかい?」
聞こえてきた声に目を丸くしたは、膜へと手をかけた。
「…また貴方の仕業?」
水風船が割れるように弾けた膜の向こうへ声をかけたは、続けて名を口にする。
「マー……あら?」
「……」
花の魔術師の名を最後まで紡ぐ事なく、相手を認識したは目をしばたたかせた。
同じく、驚いたような顔で見てくる顔は知らぬ顔。
「えぇと」
「ごめんなさい、人違いだったみたい」
騎士と思しき甲冑に、金髪碧眼の美丈夫は、自分が思っていた人物とは全く違っていた。
困ったように微笑むその人に、誰かの面影を見ては少し目を細める。
「失礼、僕はアーサー。アーサー・ペンドラゴン。お名前をお聞きしても?」
「え…アーサー?」
男の名乗りに目を軽く見開いたは、少しの間の後、はっとしたように慌てて口を開いた。
「っごめんなさい、私は。貴方は…アーサー王、という事で良いのかしら」
首肯するアーサーに、はなるほどと頷く。
「…あまり驚かない、と言う事は、君もそう言った知識はある人間、と言う事でいいのだろうか?」
「えぇ」
落ち着いた声で問われ、も頷く。
どこかアルトリアを思い出させるその姿は、間違いなく王の風格を滲ませていた。
瞬時に自分が把握している範囲外の英霊であると判断して、自分が何か間違った場所に紛れ込んだのではと推測する。
「え、と…ここがどこかご存知?」
「それが、僕にもわからなくて。気付けばここに」
「そう」
ぐるりと辺りを見渡せば、そこは真白い部屋で、設えられたソファとテーブルも真っ白だ。
そこに何かあるのに気付いて、は近寄るとそれに手を伸ばす。
テーブルと同化するように置いてあるそれを裏返せば、簡素な文が書かれていた。
[普段言えない事を言い合いましょう]
「誰が仕組んだか知らないけど…完全に組み合わせを間違えたわね?初顔合わせの人間に、普段、なんてないわ」
「そのようだね…」
二人で顔を見合わせて苦笑すると、ひとまずソファに座った。
そしては、さて、と小首を傾げて口角を上げる。
「話せという割に、お茶も何も用意がないのはどうなっているのかしら」
少し悪戯っぽく言えば、瞬時に澄んだ紅色の液体が入った湯気立つカップが目の前のテーブルに現れた。
「あら便利。言ってみるものね」
「…飲んでも大丈夫だろうか」
「害したいなら既に何か起こっているでしょう。匂いは紅茶だけど…先に飲みましょうか?」
言いながらはカップに口をつける。
「っレディ!」
止める間もなく行われた行動にアーサーは焦ったように目を見開いた。
一口飲んで、は涼しい顔でにこりと微笑む。
「無茶をする…」
「あら、そう?」
案外いける、と二口目を飲むに、アーサーは呆れたように息を吐いた。
「王に毒見役はいなかった?」
「それを貴方にさせるのはどうかと…。何ともないかい?」
「多少頑丈にできてるのよ。問題ないわ、たぶん。と言うかそれじゃ毒見役にはならないか」
心配そうに見てくるアーサーには、伊達に実験台はしていない、と肩をすくめる。
実験台? と眉をひそめたアーサーは、不躾とわかりながら、つい視線を上下させてしまう。
「…普段言えない、ね。ここだけの話って事かしら」
小さく呟いて、たまには良いか、とはソファに深く腰掛け直すとアーサーを見た。
「少し…私の話を。私はある種族との混血でね。その特殊な生まれのせいで、実験、観察、監視、いわゆる、研究対象だったのよ。実験動物と変わりない扱いね。まあ、その色々が私の力を底上げする事にもなってしまったのだけど」
苦笑しながらは更に紅茶で口を湿らせる。
黙って聞いているアーサーは、神妙な顔だ。
「奇異、畏怖、蔑み、色んな目で見られて来た。気にかけてくれる人もいたけれど、それはどれも同情や、自分の成果への後押しが欲しかったりね…下心のないものなんて一握り。全ての優しさを否定する訳じゃないけれど、それを素直に受け取れる私でもない」
過去を思い返して、少し目を細めたに、アーサーは躊躇いながらも口を開く。
「ずっと一人で?」
「一昔前まではね。私に分け隔てなく、何の損得もなく接してくれたのは、稀に施設に迷い込んでくる獣達だけ。彼らの温かさは救いだった」
の言葉にアーサーの表情が少し曇る。
それに少し首を傾げて、は口角を上げた。
「貴方が気に病む必要はないわ。それに、今は人の温かさも知ってる。人の体温が案外低いって事もね」
ふふっと笑いながらは、右耳のピアスの石をそっと握る。
温かな手を思い出しながら目を伏せて、少し柔らかな表情を浮かべた。
「今の場所は、とても居心地が良いの。ここに辿り着く為にあの日々があったのなら、受け入れられる。今の私だから、あの人と居られるんだもの」
「…君は、強いな」
「いいえ?いつだって不安なのよ。強く見せないと生きてこれなかっただけ。今は支えたい人達がいるから、強く在らなきゃいけないけれど。さ、私の話は終わり。とりあえず、ただの人間じゃないって言うのはわかってもらえたかしら?」
おどけた様に言えば、アーサーは困ったような顔でを見た。
「人の皮を被った獣なら多く見てきた。…僕からすれば、君は十分に真っ当な人だよ」
偽りのない穏やかな目で見てくるアーサーの言葉に、は少し驚いた顔をする。
「ありがとう」
照れ臭そうに眉尻を下げて、は口元を綻ばせた。
「それにしても、本来はどう言う組み合わせだったのかしらね。貴方が間違えられたのか、私が間違えられたのか…。アーサーなら…本来、相手はマスターかしら?」
「えっ」
虚をつかれたアーサーの慌てた様子に、あら、とは目を丸くした後、つっと口角を上げた。
「その様子だとマスターは女性で、普段言えない、はそう言う事?」
「え、いや、その…」
しどろもどろになるアーサーに、くすくす微笑っては小首を傾げる。
「貴方ほどの人が落とせないて、中々に難しいマスターなのね」
「っ、いや、彼女は…、…そう言うは、どうなんだい?」
「私?そうねぇ…まあ、相手はあの人じゃないと後から何を言われるかわからないけど、ゆっくり話をしたい人は色々いるわね」
視線を泳がせながらアーサーが切り返せば、少し考えたが答える。
「で、アーサーは何を手をこまねいてるの?」
「っ君は案外意地が悪い」
流しきれず、戻ってしまった話題に動揺しきりのアーサーには声を立てて笑った。
「ごめんなさい、最近はあまりこう言う事もできないものだから」
「え?」
「いや、他の人とあまり仲良くしてると不機嫌になる困った人がいてね」
楽しげなまま、桃色を細めて言うに憂いはなく、その事についてはさして問題にしていないのが見て取れる。
「今ここはあの人の監視外だろうから」
「監視?君は自由ではないのかい?」
「それは一概には言えないわね…。感じ方は人それぞれだもの。でも、私は自由だと思ってるわ」
笑みを浮かべたままのは、軽く目を伏せた。
何度か言葉にするのを少し躊躇った後、諦めたように口を開く。
「自分で言うのも恥ずかしいけれど、大事にされてるのはわかるものよ。きっと、貴方のマスターだってわかってるはず。ただし、それが恋愛感情かは別だけど」
ふっと微笑うにアーサーは、はぁと溜め息を吐く。
「僕達サーヴァントは、マスターを守る存在だ。でも、マスターとしてだけじゃなくて…その…」
「別にそこは悩まなくても良いとは思うけれど」
「そう言う…ものだろうか」
「確かに、マスターとサーヴァントではいずれ別離の時が来るけれど、終わりは誰であろうと訪れる、から」
その言葉に、はっとしたような顔で見てくるアーサーには笑みを向ける。
その笑みに、自身もまたその終わりを見据えているのだと理解して、アーサーは小さく息を呑んだ。
そして少し視線を落とし、組んだ手で口元を覆う。
「マスターは常に僕達の事を考え、的確な行動をしようと頑張ってくれているんだ。あまり…負担になりたくもなくてね」
自制するような言葉を口にしつつ、愛おしげに緩むアーサーの目を見たは、遠くない未来に良くも悪くも事は進むだろうと推測して苦笑した。
人の情はいつだって繊細で、臆病で、揺らぎやすく、そして苛烈だ。
「貴方のマスターが貴方とちゃんと向き合って、並び立ちたいと思ってる人なら、まずは手を繋ぐくらいがちょうど良いんじゃない?」
「手を繋ぐ…?」
「まあ、時には手を引く強引さも必要だとは思うけど」
アドバイスのようでいて、続く内容はまったく逆の事を口にする。
「難しい事を言うな、君は…」
困ったように眉尻を下げたアーサーに、駆け引きってそう言うものでしょ? とは目を細めて悪戯っぽく笑った。
「それにしても、いつ出れるのだろうか」
「そうね、もうどれくらい経ったかしら…」
他愛ない話を続けていた二人は、流石にそろそろ解放されてもいいのではと辺りに変化がないか見回した。
見渡しても出入口らしきものは何もない部屋は、時間感覚もあやふやになる。
はふぅと息を吐くと、口元に薄っすらと弧を描いた。
「…最終手段を試しましょうか。外からの干渉か、最悪、どちらかが消えれば、指令は達成できないから自ずと解放されるでしょう」
「消える?」
不思議そうな顔をするアーサーの前で、は少し上を見上げた。
「ギル」
呼びかけるように名を口にすれば、少し空間が揺れるような感覚があり、の笑みが深まる。
その様は、の相手への信頼度を何より雄弁に物語っていた。
その表情を見ていたアーサーは、口にした名がの言う“あの人”であると気付いて小さく笑う。
そうこうする内に、空間にひびが入り出し、自分の推測が正しい事をは確信した。
「気付いてくれたみたいね…。さようなら、アーサー。色々話せて楽しかったわ」
「あぁ、こちらこそ。有意義な時間だった」
「貴方と、貴方のマスターが上手くいくことを祈ってる」
その言葉に少し頬を染めたアーサーに、笑いながらは引き上げられる感覚に身を任せた。
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