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(どうしよう…)

は目の前にあるそれを呆然と見ながら、内心で呟く。

「? どうしました?
「ひっ、あ、いえっ」
「どうぞ遠慮なさらずに食べてください」

動かないを不思議そうに見て首を傾げ、輝くような笑顔で言うガウェインに、引きつった笑みを浮かべるしかない。
改めて、目の前の皿に盛られたそれを眺める。

どう見ても、ただの、マッシュされた、芋。

それが山のように置かれているのだ。

「えぇ、と…あの…これは……」

聞いても目の前のものは消えないし、認識も変わらないだろうし、怖すぎて堪らないが、念の為、と言うようにが問う。

「いつも頑張っているので、何か応援したいなと思いまして。は戦闘に出る事もないですし、私にできることはこれくらいかと」
(それがなんで山盛りの芋なの!?阿保なの!?)

今にも叫びそうになる口を必死で閉じるが、純粋にきらきらしい目でこちらを見ているガウェインを呪いたい気持ちでいっぱいになる。
一口も食べないのは失礼だろう、とは思うもののどう考えても全部は無理だ。
震える手で取り皿を引き寄せ、取り分け用のフォークを芋の山に入れる。
一掬いを皿に移動させ、少し眺めた後、意を決したように口にした。

(…………………酢。ビネガー……それ以外の何物でもない…)

不味くはない。
不味くはないのだが、美味しいとも言い難い。
ただただ芋と酢だ。

(…あれ?でも……これ……なんだか…)

懐かしいような、と少し意識が浮遊したところで、ふと側に気配を感じた。

「グレービーソースとトマトソースだ」

そっとテーブルに置かれたさらりとした淡いキャラメル色のソースと、目にも鮮やかなもったりした赤いソースに、は思わず目を見開く。
慌てて見上げれば、同情の色をありありと浮かべたエミヤが立っていた。

「マッシュポテトはそのままでも美味いが、ソースをかけても良い。この量なら色々楽しめた方がいいだろう」

ガウェインの面目も潰さないように、と一般論を述べるエミヤに、目をしばたたかせたは、ほっとしたような表情を浮かべた。

「あ、ありがとうございます!」

でもどっちかと言うと食べない方向で助けてほしい、と厚かましく思いながらも目で訴えれば、エミヤは押し黙って渋い顔をしたものの、はぁと溜め息を吐いた。

「…食べきれないようなら、グラタンの具材にしてもいいし、コロッケやピザにも使える。確か好きだったろう」
「! えぇ!はい!!」
「む?王はこれくらいなら普通に食べておりましたが」
「騎士である王と、一般人を同じにするのはどうかと思うが…。運動量がまず違う」

エミヤが呆れたように言えば、なるほど、とガウェインも頷いた。

「まあ、食事はバランスだ。同じ物ばかりでも良くないから、夕飯に響かない程度にな…」

そう言ってキッチンスペースに引き上げていくエミヤを心の中で拝みながら、は視線を芋の山に戻す。
まったく減ったように見えないが、とりあえず、今すぐ全部をと言う状況は免れた、とはエミヤが差し入れしてくれたソースとにらめっこをする。

(どっちから使おう……うーん、……よし)

あまり馴染みのないグレービーソースを手に取ってかける。
色見はあまり、だが、美味しそうなソースの匂いに躊躇いなく口に運ぶ。

「あ、美味しい…」

酢の酸味を消す事は無理だが格段によくなった味に、ぱっと顔を明るくすれば、ガウェインもにこにことしている。
ソースが、とは言わなかったのは正解だっただろうか。

(でもさすがに全部はほんと無理……と言うか、今後またこんな事になったら……いやいやいや考えたくない…)

もぐもぐと咀嚼しながら、の顔色が少しずつ悪くなっていく。
それに気付いたガウェインが目を丸くした。

?大丈夫ですか?」
「え、あ…」

どこか心配そうなガウェインに、しまったと思いながら、何とか顔を取り繕う。

「ななななんでもないですよ?美味しいです!」

咄嗟にまた芋を皿に取り、今度はトマトソースを引っ掴んでヤケクソのようにかけながら言えば、ガウェインが嬉しそうに破顔する。

「そうですか!それは良かった!ではまた作った折はお誘いしましょう」
(あぁぁぁぁぁ!?私の馬鹿ぁぁぁ!!!)

頭を抱えるのを必死にこらえて震えているを後ろから見ながら、エミヤはやれやれと首を振った。