リクエスト内容:英雄王(現パロ)が夢主に料理を作る話
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内線が鳴り、シドゥリはワンコールで取る。
少し戸惑ったように外線から連絡が入った旨と伝えられた名は、ここに掛けてくる事などまずない相手。
不思議に思いながらも、大丈夫だと電話を繋げば、聞こえてきたのは間違いなく知った声だった。
どうしたのかと目を丸くするが、あちらも慌てているのか早口で告げられた内容に一瞬頭が真っ白になる。
「え?…あの、すみません、もう一度…おっしゃって、いただけますか?」
どんどん顔が青褪めていくシドゥリを不思議に思いつつ、資料に目を通していたギルガメッシュは、電話を終えたかと思うと真っ直ぐ向かってくるシドゥリに眉をひそめた。
「…落ち着いて聞いてください」
「何事だ」
「さんが、病院に運ばれました」
シドゥリの言葉に目を見開いて言葉を失ったギルガメッシュは、次の瞬間立ち上がる。
「どこだ」
「すぐに車を」
シドゥリの言葉を聞き終わる前にその姿は部屋から消えていた。
駅の階段から転落した。
一時意識を失っていた為、今、精密検査をしている。
病院に入ってすぐに捕まえた看護師を問い詰めれば、しどろもどろになりながらもそう説明をされ、ギルガメッシュは小さく舌打ちする。
「あれはどこに――」
「……ギル?」
ひとまず所在を確かめようとした所で後ろから声が掛かり、振り返ると車椅子に乗せられたがいた。
「っ」
その姿に険しい表情を浮かべて足早に近寄ると、側に来たギルガメッシュには気まずそうに視線を泳がせる。
「…そっか、店長から連絡が回ったのね」
「当たり前だ、馬鹿者。何故真っ先にこちらに連絡せぬ!」
「ごめん」
素直に謝るの頬に触れ、ほっとしたように深く息を吐く。
「怪我は」
「打ち身だけ…だと、私は思ってるけど」
「油断は禁物ですよ」
肩をすくめるに、車椅子を押す看護師が忠告する。
「あ、確認終わったようです。先生から話を…えぇと、ご家族の方ですよね?」
「夫だ」
「あら、旦那さん。では、ご一緒にどうぞ」
同僚の合図に気付いた看護師に案内され、二人は診察室へと入った。
「MRIも異常はなさそうですね。今、目眩や吐き気は?」
「いえ、特には」
答えれば、頷いた医師がにこりと笑う。
「疲労からの一時的なものでしょう。今日はゆっくり休む事です。では、これで終わりに。もし、万が一何かあったらすぐに来てください」
「ありがとうございます」
車椅子から立ち上がり、付いてくれていた看護師にもお礼を言って、診察室を出る。
「さん」
「? あ、シドゥリさん!すみません、お騒がせして」
声に視線を上げると少し息を弾ませたシドゥリがいた。
「いいえ。それで…」
「特に異常はなかったです」
「良かった…」
少しばつが悪く思いながら言えば、心底ほっとした顔でシドゥリも胸をなで下ろす。
「シドゥリ」
「はい、支払い諸々はこちらで。車は外に」
ギルガメッシュが名を口にすると、心得ていると言うようにシドゥリが頷く。
「え?」
「後はシドゥリに任せておけばよい。帰るぞ」
目を丸くしたの背を押して、ギルガメッシュは歩き出す。
慌てて振り返れば、小さく微笑んで見送っているシドゥリに、ごめんなさいとありがとうの意味を込めて会釈した。
ギルガメッシュが許すわけもなく、店長にも休みを言い渡されたは家に連れ帰られる。
「あ、お昼、食べてないんじゃ?」
リビングに入り、はふと気付いてギルガメッシュを見た。
倒れたのは、昼食を届けてその足で出勤する途中だったのだ。
「…そうだな」
「届けた分はシドゥリさんにお願いして食べてもらおうか…。今準備するから――」
「良い、自分でやる。座っていろ」
「あ、はい」
キッチンへと向かいかけるがソファに追いやられ、は大人しく従う。
ギルガメッシュを視線で追うと、キッチンへと入って行った。
冷蔵庫を開けて、適当にタッパーを取り出し並べていく。
「……」
「なんだ?」
はらはらとしながら見ていれば、むっとしたギルガメッシュから剣呑な視線が返ってくる。
「う、いや、だって、ギルがキッチンに立つとか…見た事ないし…」
「温め直すだけであれば、誰でも出来よう」
「それはそうだけど…。あっ!温めるのは食べる分だけにして!!!」
タッパーを丸ごと電子レンジに放り込もうとするギルガメッシュに、が慌てて叫んだ。
結局、が食べる量を聞きながら皿に取り分けて温め直した料理を前に、ギルガメッシュは少々不満げな顔で食事を始める。
口も態度もどうかと思う時があるが、食べる所作は落ち着いており、そう言えばいつも静かだなと思っていれば、ちらりと視線が向けられる。
「料理をした事がないわけではない」
ぶつぶつと言い訳のように言うギルガメッシュに、はきょとんとする。
「…チーズとかおつまみを皿に出すとか?」
「よほど我の事を馬鹿にしたいと見える」
思わず聞けば、ギルガメッシュがひくりと口元を引きつらせた。
「じゃあ、夕飯はお任せしても?」
「む…」
少し首を傾げて問うと、昼食の準備すら渋い顔をした手前、拒否もしにくいのか難しい顔になったギルガメッシュに、は小さく笑った。
ボンッと中々に激しい音がして、飛び起きたは慌てて辺りを見回す。
キッチンに視線をやると、何やら憮然とした様子のギルガメッシュの背中があった。
「なっ、何事?」
「知らん。何故か破裂したぞ」
「は、れ…?」
呆然と呟けば、パサリと床にブランケットが滑り落ちて気付く。
(…掛けてたっけ?)
目の届く所にいろと言われ、ソファでのんびりしていたはずで、寝る気は無かったのだがいつの間に寝てしまったのだろうか。
それはそれとして、まずは現場を確認せねばと立ち上がってキッチンに向かう。
「何をどうしようとしたの…」
横からレンジを覗き込めば、弾けたビニール袋と転がるウィンナーが見えた。
「ケチャップにまみれたジャンクなあれだ」
「…もしかしないでも、ナポリタン?」
それを選ぶとは意外だったが、確かに手軽だし簡単な割に美味しく、普段料理をしなくても手を出しやすいだろう。
パスタの茹で具合も固すぎなければそこまで気にしなくてよい、と個人的には思っているので、一人の時は残り物の野菜などでよくやっている。
「それで、ウィンナーが必要だった、と」
先日はベーコンを使ったが、正直加工肉なら何でも合うだろうし、無難なチョイスだ。
なるほど、と頷けば、ふんと鼻を鳴らされる。
「以前、袋ごと温めておっただろう」
「…見てたの」
皿に出すのが手間で確かに袋のまま温めた事がある。
ずぼらをした所を見られていたのかと少々気まずく思いながらも、ギルガメッシュを見上げた。
「でもこれ、開封されてなかったでしょう?私がやったのは使いさしで開いてたの…」
密封状態の物を電子レンジにかければどうなるか。
遠回しに言うと、ギルガメッシュが少しの間の後、視線をそらした。
「まあ…どうせ炒めるし…」
「なっ、これを使えと申すか!」
「床に落ちたわけでもなく、レンジの中でしょ?勿体無いことを言わないで」
ひょいひょいと皿にウィンナーを拾って差し出す。
渋々受け取ったギルガメッシュに肩をすくめ、脂の飛んだレンジの中を掃除するかと少し息を吐く。
(と言うか、炒めるならレンチンも必要ないんだけど……)
思いはすれど、口にすれば更に拗ねそうなので、はさっさと掃除用具を手に取った。
指先を切りそうな包丁さばき。
フライパンから飛び出す具材。
噴き零れる鍋。
基本的に聞かれない限りは黙っていようと口出ししなかったのだが、さすがに何人前かと言う量のパスタを茹でようとしたのは止めたりと、は普段以上に疲れていた。
言わずもがな、心労で。
けれど、何とか食卓に皿が並び、やれやれと椅子に座る。
いただきますと手を合わせて、フォークをパスタに差し込んだ。
素朴なナポリタンの味に目を細めていれば、向かいでも食べ始めたギルガメッシュが、何とも言えない表情になる。
「む、何か足りぬ気がするな…」
「そう?美味しいけど」
素直に言うと、少し目をしばたたかせたギルガメッシュが途端に満更でもない顔になった。
(言ってもナポリタンだし。一応私のやつは、店長直伝だから多少はね…)
店の味とは違うだろうがこれはこれで家の味、まして、ギルガメッシュの初めての手料理なのだから有難く食べるのが筋だ。
サラダまでは手が回らず、作り置きから出した一品をつつきながら、はギルガメッシュを見る。
「で、今後、私が料理できない時はしてくれるの?」
悪戯っぽく聞けば、ぎゅうとギルガメッシュの眉間に皺が寄った。
「う、……いや、ケータリングか何か頼め…」
重々しく言ったギルガメッシュが小さく息を吐くのを見て、笑いそうになりながらが口を開く。
「ちなみに言っておくけど、片付けまでが料理だからね?」
「……」
普段自分が使った時よりも荒れたキッチンをちらりと見て言えば、一気にギルガメッシュのテンションが下がった。
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リクエストありがとうございました!
理由がないと絶対に料理なんかしないだろうな、と思って書き出したら、前置きがとても長くなってしまいました;
何気に普段どういった動きをしているのか、実は見てたんだなと言う感じです。
以降、片付けとかには若干協力的になってたら面白いな、と思いますw