FGO



ようやく戻った自宅。
玄関に入り、ほっと息を吐く。
パンプスの紐を外し、少し浮腫んだ脚を気にしながら廊下に上がれば、先にリビングにでも行ったと思っていたギルガメッシュに壁に追いやられた。

「へ?何、んん!?」

唐突な口付けに目を白黒させ、思わずギルガメッシュの服を掴む。
力が抜けそうになる膝を叱咤しながら、今にも服を裂いてコトに及びそうなギルガメッシュの勢いに、は必死に抵抗した。

「っ、ま、待って!この服はっ」

そこまで言ったものの、この先の展開を予測した言葉を口にする事がなんだか急に恥ずかしくなって思わず視線を彷徨わせる。

「き、気に入ってるから…その…、い、傷めないで…」

何とかか細い声で告げると小さく舌打ちされて、さっさと脱げと目で訴えられる。

「え、や、あの、ここで…?」
「その服がどうなっても良いなら別に脱がずとも我は構わんぞ」
「おかしくない!?」

玄関を入って間もないただの廊下。
まさか本気でここでする気かと愕然とするが獣じみた光を宿す真紅は有無を言わさない。
いったい何がそんなスイッチを入れる羽目になったのかはわからないが、今にも服に手を掛けそうなギルガメッシュに唇を噛んで、震える手で首裏のホックを外し、躊躇いながらもチャックを少し下ろすと緩んだVネックの首元に噛み付かれた。
これ以上は待たぬと言うように手荒にチャックを下ろされ、体のラインをあまり拾わないボックスシルエットのドレスは肩から滑り、そのまますとんと足元に落ちていく。

「っ、どうしたの?」
「何がだ」
「何って…」

コトに及ぶのは唐突で身勝手極まりない事はいつもと変わりはないが、何と言うか、余裕のなさが端々に見えて、どうにも違和感が拭えない。
ましてこんな所でがっつくような事は今までにもしなかった。
やはり変だとじっと真紅を見上げれば、ぐっと眉間に皺が寄せられる。
ランジェリーの裾から肌を辿っていた手も止まり、微妙な空気が流れる。

「いつになれば、貴様は我を認める…」

もどかしげに、苦々しげに呟かれた言葉に、は少し息を呑んだ。
それはずっと抱えていたわだかまりなのはも薄々は気付いていて、けれど簡単には応えられない事。

「…たぶん、そんなの一生無理だよ」
「なっ」

目を見開いて絶句するギルガメッシュの頬に手を伸ばし、決して拒絶ではないのだと両手で包む。

「だって、私はギルじゃないし、ギルは私じゃない。全く同じ思考を持つ事なんて有り得ないし、ここまで違ってるんだもの、わかり合う、認める、なんて無理な話よ。まして、貴方は権力者。私には到底追い付けない」
「我の考えが理解出来ぬと」

一気に険しい顔になったギルガメッシュに緩く首を振って続ける。

「私だって、ただ流されたままここに居るんじゃないの。今、ちゃんと私を見てくれてるのはわかってる。別にセイバーさんと比べて手っ取り早く私を選んだんじゃないって事もね。彼女は彼女、私は私。誰の代わりでもない」

そこまで言って、一呼吸置いたはもう一度真っ直ぐに真紅を見上げる。

「でも、貴方が私を選んだ事は、未だによくわからない。きっと、これから色んな人との出会いの中で、ただの一般人上がりな私なんかよりも合う人も出てくる」
「有り得ぬ」

思わぬ即答に驚いて、一瞬目を丸くしてしまう。
けれど、困ったように小さく微笑うに留める。

「誰だって、知らない時はそう言えるものだよ。心変わりなんていつ起こるかわからない」

「不安なのよ、私だって。今の生活は…私の理解を超えてる世界で、貴方は平気で進んでしまうけれど、私はいつかそれについて行けなくなるんじゃないかって。シビアな世界だもの。けど、その怖さまで感じなくなったら、ただの人形だから」

自分の感覚を大事にしたい。
自分を殺して、そばに立つのでは意味がない。
ちゃんと自分の目で見て、自分で確かめて歩んでいきたい。

「まだ我に妥協せよと?」
「そう言いながら、譲歩してくれてるよね。だから私は自分で自分を律してる。今の立場に甘んじて、自分がただの人であると絶対に忘れちゃいけないの。だからこそ、貴方に依存するだけの生活はできない。でも、それは認めてないんじゃなくて…」

何と言えばいいのだろうか。
今のこの生活を嫌っているわけではない。
逃げ出したいわけではない。
ギルガメッシュの事にしたって、思うところはそれは沢山あるけれど。

「ちゃんと支えて行きたいとは思ってるし、貴方と同じ景色は見てみたい。今は…それだけじゃダメかしら?」

それがギルガメッシュが望む答えではないとわかっていても、にはの譲れない心情もある。
ありのまま受け入れる事はやはりできない。
でも、歩み寄りたいとは思っているのだとギルガメッシュを見る。

眉間に皺を寄せ、険しい顔をしたままのギルガメッシュは息を吐くとを抱き寄せた。
どこか縋るようにも思える腕に、はギルガメッシュの背を撫でる。
今の自分はこれ以上の言葉は持っていない。
納得してくれるだろうか。


しばらくすると、ふっと耳元で息が吐かれる。
どこか張り詰めていた気配も薄れ、諸肌の肩に触れた空気の流れに少し震えた。

「ねぇ、寒いから着替えたい」

さすがに廊下で下着姿を晒しているのだ。
既に手遅れな気もするが、ドレスもこのままでは皺になってしまう。
熱もすっかり冷めただろう、そう思ってギルガメッシュの腕の中から離れようと身動ぐがひょいと抱き上げられた。

「わっ」
「どうせすぐ脱ぐ」
「はっ!?…いや、あの、メイクも…落としたい、し…」

普段の仕事よりも華やかなパーティーメイクは確実にシーツも汚す。
寝室には入りたくない。
そして何より心の吐露で疲れてしまった。
休みたい。
そんな思いでちらりとギルガメッシュを見ると一瞬足を止めたもののすぐに歩みは再開される。

「なら先に風呂にするか」
「え゛、入るなら一人でどうぞ?」

慌てたように言えば腰を支える手にぎゅっと力が篭り、食い込むそれにの顔が少し歪む。

「……痛いのはお断りよ」
「それはお前次第だな」
「…っ、そう言うとこは嫌い」

逃す気も離す気もないらしいギルガメッシュの答えに、は唸るように言う。

「…言っておくけど抱けば流されるなんて事も私はしませんからね」
「どうだかな」

まるで口だけでは何とでも言えると思っているように、ギルガメッシュがくつくつと微笑う。
その余裕を取り戻した様子にほっとした反面、なんだか無性に腹立たしくなって、は鼻先をかすめるように口付けを落としてくるギルガメッシュの髪を抗議するように引っ張った。




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