FGO



春の日差しが届く昼下がり。
ふと暗くなった気がして外へと視線を向ければ、どんよりとした雲が広がり出していた。
風も少しばかり出て来たのか、植木も少し揺れている。

「あら…。店長、テラス席のお客様、店内に移動してもらいますね」
「ん? あ、ほんとだね。よろしく」

外の様子に気付いた店長に一つ頷き返して、は外へ出た。

「失礼します。天気が崩れそうですので、よろしければ、店内のお席にどうぞ」

客に声を掛け、飲みかけの紅茶やケーキをトレーに一旦引き立り、テラス席から店内の席へと案内する。
お礼を言う客に新しく水のグラスを用意して、ごゆっくり、と笑顔を返し、もう一度外へ出たはクッションやブランケットなど、濡れては困る物を回収してカウンターへと戻った。

「そう言えば、彼はテラス席に座らなくなったね」

急に思い出したかのように言う店長に、きょとんとしたは、何の事か理解して、あぁと頷く。

「……店長、あの時居ませんでしたっけ」
「へ?」

目を丸くする店長に苦笑して、は軽く目を伏せた。






うだるような暑さも過ぎ、過ごしやすくなって来た初秋。
ギルガメッシュとオジマンディアスは、いつも通りコーヒーが出されるのを待ちながら、適当にたわいもなく話をしていた。

「っ、あ、あの…」

その会話に割って入るように声を掛けてきたのは、女子大生風の着飾った女。
何用かと少し眉をひそめて一瞥すれば、真っ直ぐにギルガメッシュを見ている。
後ろの方には連れだろうか。
はらはらとした様子で遠巻きに見ている女が数人。
眉根を寄せ、舌打ちしかけたギルガメッシュに、意を決した様子で女が口を開く。

「いつも、このお店にいらっしゃいますよね。えっ、と、その…」

勢いよく話始めたもののすぐに頬を染め口ごもる、どう見ても明らかな女の心情に、オジマンディアスは、ほぅと呟く。

「なるほど。懸想している、と」

直球なその言葉にますます頬を赤くした女は視線を泳がせた。
手元でくしゃりと握ってしまったのはメモ用紙だろうか。

「ふむ、わざわざこれに声を掛ける勇気は讃えるが、些か観察眼に欠けると見える。どうするのだ、黄金の」

鷹揚に頬杖をつき、楽しげに言ったオジマンディアスはギルガメッシュを見る。
どうするも何も、この目の前の男がどうするかなどわかりきっているが、わざわざ突いてみれば、案の定、ギルガメッシュから煩わしそうな視線が向けられた。
小さく溜め息を吐いたかと思うと、ギルガメッシュの目がちらりと女を見る。
意識が向けられた事で、慌てたように女が口を開いた。

「っ、あの、これ、私の連――」
「いつも、と言う割に事情も知らぬとは。浅ましくも我に声を掛けるとは呆れたものだな。後ろの女共にけしかけられでもしたか」
「え…?」

困惑する女に、オブラートの欠片もない言葉を吐きながら真紅を細めたところで、トレーを手に近付いてくるに気付いたギルガメッシュは視線をそちらに向ける。
それに対し、見慣れぬ女性がいる事に気付きながらも、は顔色一つ変えずにテーブルの側に立った。

「お待たせしました。本日のコーヒーです。ごゆっくりどうぞ」

何食わぬ顔で用を済ませて、しれっとその場を離れようとしたを、ギルガメッシュは腕を掴んで引き止める。

「何を逃げようとしておる」
「面倒事に巻き込まれたくないからですけど?」

状況を的確に把握していたが掴まれた腕を一瞥して、淀んだ目で答えれば、むっとしたギルガメッシュが更に腕を引いた。

「わっ、ちょっと!」
「それでも我の嫁か。夫がナンパされておっても何もないのか貴様」
「自分だけで何とかしてくれる?どうせ手慣れてるでしょう?」

不貞腐れたように言うギルガメッシュの膝に座らされたは、頭痛を抑えるように額に手を当てて溜め息を吐く。

「え、よめ…嫁?え、あの…その人……」

蚊帳の外になってしまった女が戸惑った声を漏らすも、すでにギルガメッシュの眼中にはなく、勘弁してくれと言いたげなとの微妙な三角関係に、オジマンディアスは可笑しそうに目を細めた。

「これに嫉妬を期待しても無駄なのはわかっておろう、黄金の」

心情を読み取って、くっくっと笑うオジマンディアスに苛立たしげな視線を向けたギルガメッシュは、ますます眉根を寄せた。
そして、げんなりとした表情のを見下ろし、首にかかる細い鎖を引き出す。
見せつけるようにその先にある指輪をひと撫でしたギルガメッシュは何の躊躇もなく、怪訝な顔をしているの顎をすくい上げて口を塞いだ。

「んぅっ!?」

突然の口付けに驚いて体を跳ねさせたの手からトレーが転がり落ち、ガシャンッと音が響き渡る。
何事もなかったようにすぐに解放して、ギルガメッシュはの濡れた唇を指で拭った。

「理解したか?これ以外の雑種を飼う気はない」

目を見開いて立ち尽くしている女を横目で見ながら、ギルガメッシュが言う。
同じく、言葉もなく完全に固まっているの首筋をくすぐるように手を滑らせれば、はっとしたの顔が一気に憤怒のそれになったかと思うと、目にも留まらぬ速さで手が振り上げられた。






当時を思い返して、胡乱な目になっていたは頭を振る。
ちなみに、の平手をくらったギルガメッシュと一悶着あったのだが、その間に女は消え、その後、二度と見ることはなかった。

「私に火の粉が降りかかる客寄せパンダは店内に移動して貰ったんですよ」
「あぁ、だからファラオ一人の時はテラス席な事もあるのか」

くすくす笑う店長に、は肩をすくめて溜め息を吐く。

「…やっぱり出禁にしません?」
「えぇ?それは困るな、売上的に」
「……あの人のコーヒー代、何気に馬鹿になりませんもんね」

店の売上への貢献と自身への被害を天秤にかけて、は悩ましい声で呻く。

「私が休みの日に来れば良いのに…」
「そんな無茶な」

結婚前からわざわざのいる日を狙って通っていたと言うのに、今となっては休みなら真っ直ぐ帰宅するだろう。
むしろ、自分も仕事を休むのではなかろうか。

「なんたって、愛されてるからねぇ、ちゃん」
「…店長、面白がってるでしょ?」
「えー?だって本当の事だし」

ふよふよと笑いながら言えば、眉をひそめ、ふいっと視線をそらしたの頬が少し赤く染まっているのに気付いて、店長は微笑ましさに表情を緩めた。
その時、勢いよくガラス扉が開く。

!おるか!」
「っはい!?」

思わず肩を跳ねさせたの反応に、ギルガメッシュはむっと眉間に皺を寄せる。

「…何故そんなに驚く」
「な、なんでもない、わ、よ?」

慌てた様子のに、ますます怪訝な顔をしたギルガメッシュがちらりと店長を見る。
その視線に気付いて、可笑しそうに笑っていた店長は肩をすくめてみせた。
目を細め、に視線を戻せば、すっとそらされる。

「我に聞かれると何か都合の悪い事でもあったか」
「っ、な、何もないったら!」
「…まあ良い、それは帰ってから聞くとする。それより今宵は空けておけ」

ふんと鼻を鳴らして、仁王立ちのまま言うギルガメッシュに、しどろもどろになっていたは目をしばたたかせる。

「え、なんで?」
「同伴での会合だ」
「え゛っ!?や、やだ…」

露骨にのテンションが一気に下がり、ギルガメッシュは口元を引きつらせた。

「嫁としての責務を果たさぬ気か」
「…いや、だって、私如きが居ても居なくても一緒でしょ?」

延々、ギルガメッシュの横で入れ替わり立ち替わり、当たり障りのない挨拶を交わしているだけで、一体何の役に立つと言うのか。
あの場で何か大きく話が動いているとも思えない。

「あー、ほら、ちゃん、そこは…お披露目と言うか、連れて歩きたいと言うか…見せびらかしたいって事では」
「…………は??」
「なっ、き、貴様、何を根拠に!」

うんうんと頷きながら言う店長の言葉にぽかんとしたの横で、今度はギルガメッシュが目を見開いて、動揺したように声を荒げる。

「し、仕方なかろう!やれ、出て来れぬような顔だ、実は結婚も嘘だ、既に逃げられた、などと外野がやかましい事この上ないのだ!」
「…地味にどれも的を得かけてるのが笑えるわね」
!!」

ぽろっと事情を漏らしたギルガメッシュにが大真面目に頷くと、ギルガメッシュの眦が吊り上がった。

「…冗談よ。わかった、わかりました、お伴します」

どんよりと深く溜め息を吐きながらも了承の意思を伝えれば、ギルガメッシュもばつが悪かったのかすんなり怒りを収める。
珍しく、お互いにそっぽを向いて息を吐く二人に、店長はコーヒーを淹れながら小さく笑った。