再召喚可能になっている、と言う認識だけで大丈夫です。
詳細としましては、
2019年新春イベ『雀のお宿の活動日誌~閻魔亭繁盛記~』
で開示された下記情報を元にしております。
・霊基グラフとトリスメギストスⅡの接続により、サーヴァント再召喚が可能となった
・本来、再召喚で記憶は受け継がれないが、霊基グラフに登録されていた皆は保持している
イベント時召喚済でしたので、シオンより説明を受けている場面を想定しております。
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「待って、記憶も保持して…?」
「そう、彼女の地道な作業のおかげでね」
「っ兄さん、後よろしく!!」
藤丸を残して、立香は駆け出す。
残された藤丸は、焦ったようにシオンにすぐにでも召喚したいと詰め寄った。
早く、早く、と足音が響き渡るのも気にせず、立香はを探す。
メンテナンス中のボーダーの側にその姿を認めて、立香は駆け寄った。
「さん!!」
「立香?慌ててどうしたの?」
「いいから来て!」
すごい剣幕で手を引かれて、は目を白黒させながら立香に続く。
しかし、いくらも行かないうちに、走り出しそうな立香とは対称的にの足取りはどんどんと重たくなっていった。
「っ!!」
大人しく引かれるがままだったの足がピタリと止まる。
ぐっと抵抗を感じて、立香も足を止めて振り返った。
「さん?」
「…だめよ、立香。私は…この先には行けない…」
カタカタと震える手。
怯えを滲ませた声が拒否を告げる。
何故かはわからない。
けれど、頭の中で警告が浮かんでは消えて行くのだ。
「え?あ、さん!」
するりと立香の手から己の手を抜き取ると、は来た道を逃げるように戻り出す。
早く離れなければ。
それだけを考えて、浮かぶ涙が何を意味するのかもわからず、只管に前に進む。
頭が痛い。
自身でも気付いてはいるのだ。
今の自分が何かおかしい事に。
いくら使おうが、枯渇することのなかった魔力が、今は一欠片も残ってはいない。
これではまるで、何かに器ごと変えられたようだ。
特異点を超えてきた記憶はある。
けれど、自分が何の役割を成したのか、それに関しては靄がかかったままだ。
しかし、その固く閉ざされた記憶の蓋は、開けてはならないと何故か知っている。
(…怖い。…そうか、私は…何かを恐れて……っえ?)
じわっと温かいものが触れる感触に気付いたは、はっとして胸元を押さえて足を止める。
気が付けば、身に付けていたそれ。
由縁も何もわからない、けれど、外す事も出来なかった物。
鎖を引き出せば、キラリと光る金色が微かに熱を帯びていた。
熱とは別に滲む気配もある。
震える手で指輪を握りしめ、浅く息を吐いた。
体の内側で何かが騒めき、歓喜と恐怖が入り交じった感情には自分がわからなくなる。
頭を振って、改めて歩き出そうとした瞬間、目の前に現れた人影にぶつかりかけて、は体勢を崩した。
「まったく…手のかかる女よな」
どこかで聞いた事のあるフレーズ。
何故か耳慣れた声に、ひゅっと息が止まる。
恐る恐る、倒れかけた自分を捕らえる主を見上げれば、鮮烈な赤とぶつかった。
「っ!!」
腕を掴む手と逆の手が伸ばされ、は体をすくませて、きつく目を閉じる。
怯えきったその様に目を細めたその人は、躊躇いなく、何の装飾もない右耳に触れる。
ひやりとした物が刺さった瞬間、パンッ、と何かが割れるような音がして、電気に撃たれたような衝撃にの目が見開かれた。
「っ、く、…ふっ…ぁ……」
咄嗟に伸ばした手が掴んだのは自身を支える腕。
それを指先が白くなる程握りしめる。
無理矢理、魔力を注がれる感覚。
激流が体を駆け巡っていく。
崩れ落ちそうになる体を支えられ、脂汗を浮かべながらはゆるゆると顔を上げた。
「何、…を…」
「……」
痛みと混乱に揺らぐ瞳を見返す目は静かで、何かを待つように沈黙を貫く。
「ぐ、ぅ…」
襲い来る痛みはとどまる事を知らず、俯いて頭を振るが、耐え切れなかった苦しげな声が漏れた。
荒い呼吸を繰り返し、意識が朦朧とし出したは、さらりと髪を撫でられた事にも気付かない。
「」
「っ!」
名を呼ばれた瞬間、目の前が真っ白になるような、体を駆け抜けて行く更なる痛みに、は声にならない悲鳴をあげた。
平衡感覚を失い、今自分がどうなっているのかすらわからず、自分を支えている腕に縋るしかない。
急激に、修正と再構築をされて行く記憶。
だが、突如、鮮明になった視界に、輝く真紅を捉えた。
はっと空気の塊を吐き出したは、泣きそうになりながら、その顔に手を伸ばす。
「…っ、あ…………ギ、ル…」
名を口にした途端、許容を超えた情報量に意識が保てなくなる。
力を失った指先が頬を滑り、満足げに上がった口角が見えたのを最後に、は暗闇へと落ちて行った。
ゆらゆらと温かく、明るい光がそばに寄り添う感覚。
誰かに呼ばれている。
そんな気がして、休息を訴える身体を宥めながら一つ息を吐くと意識を浮上させた。
「……」
「気付いたか」
静かな声に、ゆっくりと視線を向ければ、見下ろしてくる真紅。
「…ギル?」
名を口にすれば、今までの畏怖がなんだったのかと思う程の安堵感が広がる。
起き上がろうとするが、痛みに強張っていた名残か全身が軋んだ。
が眉間に皺を寄せれば、そっと抱き起こされる。
水の入ったグラスを口元にあてがわれて、は大人しくそれを少しずつ飲み干した。
ふっと息を吐いて力を抜くを、ギルガメッシュは立てた膝に凭れさせて、自分に寄りかかるように座らせる。
「…戻った、のね」
はぽつりと呟きながら、頭を柔らかく撫でる手に目を細める。
さらりと髪を梳いた手が首にかかる鎖に触れ、指輪を引き出した。
身動ぎもできずにただそれを眺めているの前で、鎖が霧散する。
残された指輪を軽く握ったギルガメッシュが、ほぉ、と呟いた。
「?」
「誰にも触れさせる事はなかったらしいな」
「……何を仕込んであるの」
口元を引きつらせて問うが、くっと微笑う声が聞こえるだけで説明はない。
の左手を拾い上げ、改めてその薬指へと滑り込ませると、ギルガメッシュの口元が弧を描く。
即座に身を包む魔力に、それがどれほどの力を持っているかは考えるまでもなかった。
は自身が全く感知できなくなっていただけで、常にギルガメッシュの気配をまとっていた事を知る。
「他意なく首輪だったわけね…」
「我が宝物を野放しにするわけがなかろう。まさか、記憶まで手放すとは思っていなかったがな…」
「…どうしたらいいか、わからなかったのよ。最初は、力だけでなく私自身が取り込まれてしまえば、宝物庫へ向かえるし、それで良いと思ってた。でも、あの子達が受ける扱いを考えたら…。特にマシュは、デミ・サーヴァント。今まで以上に…私のようになりかねない」
眉根を寄せたは小さく息を吐くと、存在を確かめるようにギルガメッシュの肩口に額を押し付ける。
「結局、事が起こった時には、私はまだ眠っていたのだけど」
「ただの女が起きていたところで、太刀打ちなど出来なかったであろうよ」
自嘲するように言うに、それで良かったのだとギルガメッシュは宥めるように髪を梳いた。
少し表情を緩めたはなんとか腕を上げるとギルガメッシュの体に回し、じわりと混じる体温に滲みそうな涙に気付かないふりをする。
自ら寄り添ったに目を細めたギルガメッシュは、ふと思い出したように微笑った。
伝わる振動に、が少し顔を上げて、不思議そうにする。
「?」
「何、最後の言葉を思い出しただけの事よ。珍しく愛い事を言っていたな」
にやりと笑ったギルガメッシュに、はきょとんした後、自分が何を口にしたか思い出して、逃げるように視線をそらした。
羞恥に赤く染まる頬をギルガメッシュの手が滑る。
「」
名を呼ばれたかと思うと顎をすくわれ、近付く真紅に少し身を固くしたものの、は抵抗せず、目を閉じた。
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