「
」
耳に馴染んだ、名を呼ぶ声。
髪に触れる感触に目を開ければ、真紅がじっと見下ろしてくる。
「…お疲れ様」
その瞳を見返して微笑んだ
は、腕を引かれるまま起き上がった。
魔力を抑制している反動か、立香とお茶を楽しんだ後からうつらうつらとしていたのだが、辺りは既に暗く、どうやら少々寝過ぎてしまったようだ。
立香は
が動く気がないと確信して、自分の本来の目的を遂行する為にフィールドに出て行った。
それもすでに帰還しているだろう。
小さくふわりと欠伸を零せば、傍らに座ったギルガメッシュの膝に引き上げられる。
身を任せて、そっと肩に頭を乗せるとギルガメッシュの指が手首を這った。
音もなくブレスレットが消えるが、
の魔力は戻る様子がなく、ギルガメッシュが眉をひそめる。
「…何をした」
「え?あぁ…」
ギルガメッシュが触れている手首からブレスレットが消えている事に気付いて、ふっと息を吐いた
は魔力を巡らせた。
淀んでいた魔力が堰を切ったように流れ出し、痛みと呼ぶほどではないものの不快感に少し顔をしかめる。
「…自らも封じていたのか」
「補助にね。自分で抑えた方が負荷も少ないから」
なんでもないように答えると、体に回る腕の力が強くなった。
預けた額に口付けが落とされて、
は表情を緩める。
心地の良さに目を細めていた
は、ふと思い出したように小首を傾げた。
「藤丸は無事?」
ここにいると言う事は、全て終わったのだろう。
そう踏んで問えば、少しの間の後、ギルガメッシュの手が髪を梳いた。
「…まあ、及第点と言ったところだな」
「そう」
と言う事は、なかなかに厳しい戦いだったのだろう。
後で労わないと、と思っていれば、するりと頬が撫でられた。
なぞる指がくすぐったくて、微笑いながらその手を取るとぎゅっと握られる。
「
」
「うん?」
見上げれば、何か言いたげな表情で、けれど、黙ったままのギルガメッシュに
は困ったように眉尻を下げた。
「…ちゃんと手の届く所にいるわ」
そっとギルガメッシュの手を両手で包む。
この手を取る事に何の迷いもない。
温かなその手をそっと口元に引き寄せて目を伏せる。
何か祈るようにも見えるその姿。
ギルガメッシュが小さく息を吐くのが聞こえて、
は視線を上げた。
「手を伸ばすのを躊躇うなと言ったのはギルよ。それに、私は貴方の管理下にあるモノ。貴方の盾で、剣である事に不満なんてありはしない」
じっと真紅を見つめて言い切った
は、柔らかく目を細める。
「でも、たまには使ってくれないと錆びるわね」
少し悪戯っぽく微笑う
に、呆気にとられて目をしばたたかせたギルガメッシュは、くっと笑うと
を抱えたまま横になる。
深く抱き込めば、少しくぐもった声が漏れ、
が身動いだ。
「明日は少し出るか」
力を緩めて頭を撫でると、目を丸くして見てくる。
「喜んで、と言いたいところだけど、まだこちらに残るの?」
「どうせ雑種共もろくに素材は集まっておらんだろう。手を貸してやっても良い」
言いながら目蓋や頬に口付け、背をするりと撫でれば、小さく体を震わせた
が服を掴んで眉根を寄せた。
少々剣呑な視線には気付かないふりをして、戯れる様に更に口付けを落とす。
「……本当に出掛ける気ある?」
不服げな声音で問う
に口角を上げたギルガメッシュは、その首筋に顔を埋めた。
さらりと髪が頬をくすぐり、
が咄嗟にギルガメッシュの体を押す。
「っギル」
「ん?」
「…やだ」
言いにくそうにしながらも拒否の言葉を紡いだ
の顔は、どんどん気弱なものになっていく。
「ほぉ、我を拒絶するか」
「そ、言う、訳じゃ…」
意地悪く言うと心底困った表情を浮かべた
がしどろもどろになる。
その様子にギルガメッシュは愉しげに目を細めて、唇を重ねた。
甘美な魔力を舐めとり解放すれば、桃色が揺れて視線が泳ぐ。
「今日はこれで見逃してやる」
くつくつと笑いながら頬を撫で、抱き寄せ直すと、機嫌を損ねるとでも思っていたのか、胸元に額を預けた
がほっとしたように息を吐くのがわかる。
それに少しむっとしたギルガメッシュは、
を見下ろした。
「別に普段から無理強いなどして――」
「聞いてくれない方が多いわよ」
「……」
被せるように即答する
に解せぬ顔になっていると、赤く染まった耳を覗かせた
が俯いたまま、もごもごと不満を口にする。
「…もうやだって…言っても…、その、やめて…くれない、じゃない…」
「…喰らい始めた後の事は知らん」
言いたい事は理解したものの、しれっと答えれば、一瞬動きを止めた
から今度は諦めたような深い息が吐かれ、ぐったりと脱力する。
これ幸いと反応の薄くなった
の頭を撫でたり、髪を梳いたり、口付けを落としたりと、楽しげに構っていたギルガメッシュは耳元に擦り寄る。
「
」
「嫌」
間髪入れずにきっぱりと拒否した
の声は疲労の色が滲んでいた。
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