FGO



触れる。
撫でる。
梳く。

細やかに、慈しむように、どこまでも柔らかく。
温かなそれに身を委ねていたはそっと目を開ける。
ちらりと見上げれば、その視線は書類を向いていて、少し不服な顔をしてしまう。

「…ギル」
「ん?」

名を呼べば、気付いたギルガメッシュが不思議そうに見てきた。
小さく息を吐いて、困ったように眉尻を下げれば、するりと頬を撫でられる。

「離れていい?」
「なんだと?」
「私も仕事したい…」

唐突に伸びて来た手に何事かと思いつつ、黙って受け入れていたが、どうやら無意識だったらしい。
自分は良いかもしれないが、そちらに気を取られてしまうの端末はスリープモードに移行してしまっていた。
ようやく言いたい事を理解したらしいギルガメッシュが何度か瞬きした後、再度髪を梳き始める。

「気にするな」
「無茶を言うわね」

どうしたものかと考えたは、ふと思い立って靴を脱いだ。
ギルガメッシュに背を向けて、ソファの上で膝を抱えるようにして横に座り直すと、ギルガメッシュの肩にそっと凭れる。
そしてそのまま端末を再起動させて視線を落とせば、何の躊躇もなく腹に腕が回った。
目をしばたたかせてその腕を見下ろしたは、こちらから触れているだけでは駄目らしい、と悟って息を吐く。
ただ、撫でると言う行動がなくなった事でも仕事へと意識を集中できた。
後ろからしばしの様子を見ていたギルガメッシュも、書類へと視線を戻す。

お互い納得する位置を見付けてしまえば後は静かなもので、黙々と仕事を捌いていく二人。
今ではそんな二人のやりとりに慣れたスタッフ達もいつもの事と気にも留めない。
だが、それが時間の問題で、離れる時がややこしくなる事も知っていた。



一通り渡されていた仕事を終えたが、ふと時計を確認して立ち上がろうとする。
しかし、ギルガメッシュの腕が外れる事はない。

「ギル」

声を掛けるが、ギルガメッシュも続く言葉がわかっているのか、聞こえないふりに徹している。
軽く振り返り見上げても視線は合わない。

「ねぇ、私そろそろ食堂に手伝いに行かないと」
「…必要なかろう」
「今ここにどれだけの人数がいると思っているの?」

困ったように言っても拘束する力は変わらず、むしろますます強くなる。

「…確かに、私の手伝いなんて微力にしかならないけど」
「なっ、役に立たぬなどと言われておるのか!」

少し視線を泳がせて呟けば、ギルガメッシュの血相が変わり、手にされていた書類が散る。

「どれに言われたのか、疾く申せ!我自ら八つ裂きにしてくれる!」
「え?ちょ、ちょっと待って!?」

何故そうなるのかとギルガメッシュの反応に慌てたは、己を抱えたまま今にも食堂へ向かいそうなギルガメッシュの腕を掴む。

「皆、そんな事は言わないわよ!」
「む?」
「お願いだから落ち着いて…。あのメンバーでそんな事言うと思う?」

の言葉に眉根を寄せたギルガメッシュから怒気が薄れていく。
ひとまず何とか押さえれたかと、はほっと息を吐いた。

「それに、私が無理を言って手伝わせて貰ってるの」
「…何故そのような」
「あら、貴方が急にお腹が減ったと言い出した時の為でもあるんだけど?」

小首を傾げると虚をつかれたギルガメッシュの目が丸くなる。

「レパートリーがないと飽きるでしょう?」
「……」

続けて言えば、瞬きを繰り返していたギルガメッシュが力を強めたかと思うと肩に顔が埋められた。

「ギル?」

戸惑って後ろに声を掛けるが、反応はない。
がっちり抱き込まれてはそれ以上振り返る事もできず、首筋に柔らかく金糸が当たる。
状況説明が必要だろうかと少し考えて、は口を開いた。

「基本軽食だから簡単な物しか作らないけど、お菓子だけじゃなくて食事もある程度こなせる様に努力はしてるのよ?アルトリアにも提供しているから、変な物は出せないでしょ?」
「…まだあれと食事を共にしておるのか」

呟かれた言葉は不満を如実に表しており、苦笑するしかない。

「供給後の食事は、ロマニの指示だから。…解除はされてないもの」

つい寂しさの滲む声になって、思わず目を伏せる。
すると深く息を吸うのが聞こえ、宥めるように額がすり寄せられた。
大丈夫と言うようにギルガメッシュに体を預けて、腹に回る腕に手を添える。

「今日のメインは魚にせよ」

小さく聞こえてきた要望には少し目を丸くして、くすくすと微笑う。

「伝えるわ」

少し緩んだギルガメッシュの腕からするりと抜け出すと、靴を履いて立ち上がったは管制室を出て行った。
それを見送ったギルガメッシュも、一つ息を吐いて処理を再開する。
目は真剣そのものだが、今の機嫌を表すように口元は弧を描いていた。






「最近、ほんと慣れたな」
「あぁ、以前なら触った時点で跳んで逃げてたもんな。でもあれ、前から抱えられてたら絶対無理なやつだろ」
「でしょうね」

やれやれと小さく溜め息を吐き合う。
良い事ではあるのだが、見せ付けられる側としては何とも言えない気分になるのは仕方ないだろう。
まして、本人達はいたって自然体なのだ。

「後、扱いというか、ノせるのほんと上手くなってきましたよねぇ…。仕事環境に直結するんで、仲が良いのは助かるんですけど」
「手馴れてきてるよな。王も、あぁなると普段から処理速いのに更に効率上がるってんだから…。存在がバフとかチートか」
「きっと、本人全然気付いてないんですよ、その辺」
「だろうな」

モニターからは一切顔を上げず、ぼそぼそと言い合うスタッフの表情は無の境地に達していた。