FGO



走る、走る、走る

感覚を頼りに、廊下をひたすらに前に進む。
そんなはずはない、と頭の片隅で疑念が浮かび、荒い息が体の限界を伝えるが足は止められない。
滲む視界に求めた姿が映った。

「っマシュ!!」

名を呼ぶ。
二度と呼べないと思っていたその名を口にする。
振り返ったその顔が目を見開いた後、嬉しそうに破顔した。

さん!」

耳に届いた声。
はそのままの勢いでマシュに抱き着いた。

「わっ」
「っおかえり」
「えっと…ただいま戻りました」

返事と共におずおずと背中に回された温かな手。
ぎゅっと抱き締めれば、涙が零れた。


どれくらいそうしていたか、大人しく抱き締められていたマシュが少し身動いで、はそっと体を離す。
確かめるように頬に触れれば、恥ずかしそうに目が細められた。
夢ではない感触に、安堵の息を吐くを見上げて、マシュはきょとんとした表情になる。

「あれ、あの、さん…目が」
「っ!!」

マシュに不思議そうに言われて、は体を強張らせた。
魔力を消費し尽くし、回復もままならない今、その姿はまったく偽れていない。
一気に血の気が引いていく感覚に、目元に手をかざして少し後退る。
その様子に驚いたマシュが、心配そうな顔で見上げた。

さん?」
「っ、これ、は…」

「逃げるな」

踵を返しかけたの腕を、いつの間にかそばにいたギルガメッシュが掴む。
動揺に揺らぐ目でギルガメッシュを見上げたはすぐに下を向いてしまった。

「あれ、マシュ?と――」
「っ、さん!!」

声が聞こえたかと思うと同時に、ドンッと横からぶつかってきた衝撃に耐えられず、はその場で押し倒される。

「せ、先輩っ!危ないです!」
「っ…いたた……立香…加減をして」

頭を打つのは免れたものの、尻餅をついた臀部から電気のように痺れが走っては呻く。
だが、ぎゅうと抱き着いた立香は黙ったまま何も言おうとしない。

「立香?」
「――だもん」

小さな声は聞き取れず、は首を傾げた。

「え?」
さん、ずっと目が覚めてないって…それなのに王様、顔を見るのもダメだって…」

立香の言葉に驚いてギルガメッシュを見上げれば、溜め息を吐かれる。

「あれから、四日は経っているな」
「そんなに眠っていたの…私…」

呆然としていれば、体に回る立香の腕の力が強まった。

「…すっごく心配したんだよ、戻って来たのにさんいないんだもん」
「ダ・ヴィンチちゃんに聞いたよ、俺達の帰りを最後まで守ってくれてたって」

そばに膝をついて藤丸も言う。
少し俯いたが、立香の肩にそっと手を添えれば、ゆるゆると顔を上げた。
体を離して、向かいにぺたりと座り込む立香とその横の藤丸を改めて見る。
そして、その後ろでおろおろとしていたマシュも、今は静かに微笑んで佇んでいた。
じっと見てくる三対の目に、はこくりと息を呑む。
まだ躊躇っている様を見て、ギルガメッシュは口を開いた。

「何を心配しているのか知らぬが、ここにはすでに、神や王だけに飽きたらず、悪魔や鬼までいる始末。本来の姿を晒したとて、今更怖気付くような奴らではあるまい」
「へ?」

きょとんとした藤丸の横で、先にの瞳の異変に気付いた立香は、わぁと感嘆の声を上げる。

「ん??あ!え!?」

そこにはなんの負の感情もなく、ただ素直で、純粋な驚きだった。
何故そうなったのか、どうして変わったのか。
そんな事は関係なく、ただとして受け入れていた。
ぽかんとしていた藤丸の顔が閃いたと言うようにぱっと明るくなる。

「春の色だ」

にこにこと笑顔で言う藤丸に、の目が見開かれた。
そして、眉尻を下げて泣きそうな顔のまま口元を緩め、藤丸を抱き寄せる。

「わわっ!さん!?」
「あー!兄さんズルい!」
「ぐぇっ!」

抱き締めてくるに顔を真っ赤にした藤丸に、立香が更に横から飛び付く。

「せ、先輩ー!!」

耐え切れず、廊下に転がる事になった三人にマシュが叫んだ。
気にする事なく嬉しそうに、ふふっと微笑ったは身動いで、両手で二人を抱える。

「…おかえり、藤丸、立香」
「「っただいま!!」」

眩しい笑顔と明るい応えに、は目を細めた。



しばらく眉間に皺を寄せて見ていたギルガメッシュは、藤丸と立香からべりっとを引き剥がして、そのまま抱き上げる。

「わっ、ギル?」
「時間切れだ。此奴らへの詳細の説明は後日にせよ」
「王様、独り占めズルい」

ぷくっと頬を膨らませた立香に、ギルガメッシュは不敵な笑みを浮かべた。

「これは我のものだからな」
「もー!って、え、ちょ、さん足…」
「?」

座ったままだった立香の目の前に見える白いそれはどう見ても裸足で。

「…あぁ、忘れてた」

マシュの気配を感じて、何も考えずに部屋を飛び出したのだ。

「本調子には程遠い状態で、目覚めてすぐに走る奴があるか」
「だって…」
「わぁ、ほんとだ、さん顔色凄い…」

視線を彷徨わせているを改めて見た藤丸が顔を引きつらせて呟く。

「私、エミヤにご飯頼んでくるね、体に良さそうなやつ!」
「あ、じゃあ、俺、ダ・ヴィンチちゃんにさんが起きたって伝えてくる」
「私も行きます!」

立ち上がってそれぞればたばたと散って行く三人に、は呆気に取られる。

「…元気ね」
「安心したのであろう。何度状況を問われたか知れぬ」

やれやれと首を振るギルガメッシュに、は少し身動いだ。

「…ギル」

ぐっと強くなる腕の力を感じながら、真紅を見上げると真っ直ぐ視線を返される。

「ありがとう」

何をとは言わず、笑みを乗せて告げれば、少し目を見開いたギルガメッシュは口角を上げた。

「礼は…そうだな、後日で良い」
「…なんだかとても嫌な予感がするのは気のせいかしら」
「さてな」

表情を強張らせたにくつくつと笑って、ギルガメッシュは部屋へ戻るべく歩き出す。
視線が外れ、小さく息を吐いたは、そっとギルガメッシュの肩に頭を預けた。




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