「そこな、女」
翌朝、食堂へ向かおうとしていた横から声をかけられ、
は足を止めて振り返る。
そこに佇むのは真紅の目を光らせる金色。
立香か藤丸が新たに召喚したのか、と一人納得し、体ごと向き直った。
値踏みするように上から下へと流れた視線が、すいっと戻ってきて、まっすぐに射られる。
「随分と面白い中身をしているな」
男の言葉に驚いて、少し目を見開いた
は薄く口元に弧を描く。
「お初にお目にかかります、ギルガメッシュ王」
「ほぉ、我が名を知っていたか」
恭しく頭を下げた
に、ギルガメッシュは心底面白そうな表情を浮かべる。
「それはもちろん。ウルクでは、藤丸と立香、マシュがお世話になりました。
、と申します」
「あれに少なからず守護をかけているのは貴様であろう?それほどの魔力を持ちながら、自らは動かぬか」
「…私ではなく、彼らが彼らであるからここまで来れた。あの子達だったからこそ、今こうして王もこちらにおいでなのでは?」
軽く目を伏せ、微笑んで言えば、はっ、と尊大にギルガメッシュが笑う。
「傍観者に徹するか。気まぐれに手を出すあれと一緒よな」
「あら、どこぞのグランドキャスターと一緒にされるのはいただけませんわ。私の仕事はこのカルデアに」
言うや否や、
の手が素早くすいっと動く。
バリンッ、と激しい音がして、魔杖から放たれた光が防護壁にぶつかり霧散した。
「…唐突すぎます、王」
間に合ったことに内心安堵して、脱力するように
は言う。
そんな
の様子に、ギルガメッシュは面白いものを見つけたと言わんばかりに口角を上げた。
「ふん、貴様の力量を試したまでの事。王が直接手を下したのだ、光栄に思え」
反射的に力を引き出した為、普段は琥珀のような
の瞳が桃色に光るのを眺めて、ギルガメッシュは
に近寄る。
間近に迫るギルガメッシュから身を引こうとした
に真紅が細められた。
「逃げるな」
「っ…」
ぐいっと顎を捕まれ、じっと見下ろしてくるギルガメッシュを見返す
の目が居心地悪さに揺らぐ。
「なるほどな、毛色が珍しいとは思ったが、混血であったか。さて、何との混ざりか――」
「あ、いた!!!王様!!!」
後ろから慌てたようにぱたぱたと走ってくる立香に、ギルガメッシュは眉間に皺を寄せる。
「やかましいぞ、雑種」
「人の説明を聞かずに、いなくなっちゃったのは王様だよ!って、ちょっと
さんに何してるんですか!?いいぞもtt、じゃない、離れて!」
「…立香」
本音と建前が混じった叫びに、すでに力を抑えていつも通りの容姿に戻った
は軽く口元を引きつらせる。
舌打ちを一つして
を解放したギルガメッシュは、立香を見下ろした。
その覇気に、うっと詰まる立香と、それを楽しんでいる風にも見えるギルガメッシュに苦笑していた
は、次の瞬間、ざわっと毛が逆立つような感覚に、ばっと後ろを振り返る。
じりっと一歩後ろに下がると、そのまま踵を返した。
「王、御前を失礼いたします!立香、また後で!!」
呼び止める隙も与えず、脱兎のごとく廊下を駆けていく
の背を呆然と見送った二人の耳に、こつこつとヒールの響く音が聞こえてくる。
そちらを見れば、サンタオルタが歩いてくるところだった。
「あぁ、トナカイ、
を見なかったか?」
「え、えっと…
さんがどうかしたの?」
「今年のクリスマスは少し範囲を広げるんだが、手伝いで同乗するよう言っているのに衣装合わせも済んでいない」
険しい顔で言うサンタオルタの言葉に、立香が表情を変える。
「衣装…ミニスカサンタ……」
「なんだそれは?」
「浪漫ってやつですよ、王様」
怪訝な顔をしたギルガメッシュに、立香は拳をぐっと握って力説すれば、真紅が愉快げに細まった。
「ほぉ…」
にまりと口角を上げた二人は、
が走り去った廊下を振り返る。
「行きますよ王様」
「たわけ、同じ場所を探してどうする。手分けした方が早いに決まっておろう」
率先して歩き出す二人に、少し首を傾げたサンタオルタは、とりあえず
が捕まればそれでいい、と特に何も言わずに自分は自分で探そうとその場を離れた。
(なんだかものすごく嫌な予感がする…)
ぞわぞわと肌が泡立つ腕をさすりながら、
は廊下を行く。
カリッと指先をかじり、血を何滴か絞り出すとそれが蝶に変わった。
ひらりと宙に舞ったかと思うと、空気に溶けるように姿を消す。
そっと目を閉じて、蝶が伝えてくる辺りの気配を把握しながら、人がいない方へと道を選んだ。
(これ…追手が増えてる…?立香はあちらに回ったか)
移動速度の速い気配に、眉根を寄せ、
は立ち止まる。
とりあえずどこかに身を隠したいが、自室は危険であろうし、人の集まる食堂などもいただけない。
(ロマニ…のとこは乗り込まれたら、あっさり引き渡されそうだし…ダ・ヴィンチちゃんもダメ…)
候補を上げていくがことごとく却下されていく状態に、
は頭を抱える。
(仕方ない…一か八か、あっちの自室に戻るか…)
本来であれば今日はまたロマニの手伝い予定だったが、自分の安全には変えられないので、ロマニのいる方面に合掌して、
は足早に目的地へと向かう。
「
さん、捕まえた!!」
「っ!?」
角を曲がった瞬間、腰に飛びついてきた立香に、
は危うく声を上げかける。
「気配遮断とは考えたわね」
わざわざ着替えたのか、立香の纏う魔術礼装を見て瞬時に理解し、小さく舌打ちするが、すぐにふっと口角を上げた。
「立香」
「へへ、放しまs」
名を呼ぶと得意げに見上げてくる立香の頬を両手で包み、顔を寄せ、そっと額にキスを落とす。
「立香、放してくれるかな」
「!?」
少し魔力を載せた甘い声で囁けば、色香に当てられ顔を真っ赤にした立香は、ぺたんと座り込む。
「っ!?っっっ!!??」
「はい、ありがとう」
妖艶に笑って、立香の頭を撫でると
はその場を離れる。
(あっぶない…)
内心舌を巻きながら、自室まで後一ブロックと言うところまで来て、感覚だけでなく視覚で辺りを確認する。
特に目立つものはなく、
は足早に自室前まで移動した。
扉に手を触れ、問題ない事を確認するとさっと部屋に入る。
電気をつける事もなく、手をかざして、もう一つの自室への扉を呼んだ。
「ほぉ」
薄く光が溢れ出したそこに手をかけた瞬間、後ろから聞こえた声に、
は戦慄して振り返った。
金の粒子が舞い、そこに形作られる造形に息を呑む。
「ギルガメッシュ王…」
「よもや自室に戻る馬鹿かと思いきや、隠し部屋があったか」
楽し気に見てくる真紅を見返して、じりっと少し後退る。
まだ完全には繋がっていない扉。
このまま中に逃げ込む事ができるか、非常に難しいところだ。
もし、失敗すれば、少なからず扉から漏れる魔力がギルガメッシュに届いてしまう。
と言うか、王の御前から逃げるという選択肢を選んでいいのかも正直悩む。
相手はあのギルガメッシュである。
後がさらに面倒くさそう、と
は冷や汗を流した。
「そう警戒するな。交換条件といこう、
」
の内心を読み取ったかのように、ギルガメッシュはくつくつと笑う。
「興が乗った。我にサンタとやらの衣装を着て見せるのであれば、今そこへ逃げ込むのは見逃そう。嫌ならば、そうだな、今すぐあれを呼ぶか」
「…それ、どっちにしろ私がアレを着る事に変わりないって事ですよね?」
口元を引きつらせた
は、大きく代り映えのない脅しのような選択肢に、泣く泣く前者を選ぶしかなかった。
何が気に入られたのか、顔を合わせれば何かと構ってくるギルガメッシュに付き合いつつ、サンタオルタの目を回避して過ごす事数日、目の前に立つ、瞳をキラキラさせた少女に、
は目をぱちくりとさせる。
「何この可愛い生き物」
「あ、えっと、この姿では、はじめまして、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィです!」
ぱっと笑顔を振りまいて名乗られた名に一瞬止まるが、気を取り直して頭を撫でた。
照れくさそうに頬を染める様に、
は思わずぎゅっと抱きしめる。
「わぁ」
「あ、ごめんね?」
体を離してにっこり微笑めば、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィは真っ赤な顔でぶんぶんと首を横に振る。
その横で、立香は恨めしそうにその様子を見ていた。
「うぅ、
さんのミニスカサンタ」
「へ?」
呟いた立香の額をぴんと弾いて、きょとんとしている藤丸には、なんでもない、と笑顔で圧力をかける。
「さぁ、もう出発でしょう?いってらっしゃい」
「はい、さあ、行きましょう、トナカイさん!」
笑顔のジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィに引き連れられて、立香と藤丸は旅立った。
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